2000年代に入り、成人発症、両側鼻茸、嗅覚障害、末梢血中好酸球の高値、気管支喘息の合併を主徴とする慢性副鼻腔炎がみつかり、春名先生らにより好酸球性副鼻腔炎と提唱されました1)。2014年には診断基準が確立し2)3)、徐々に医療界全体にその疾患も認知されつつあります。
この好酸球性副鼻腔炎は、従来の慢性副鼻腔炎(蓄膿症)とは異なり、過剰な免疫応答による上気道の慢性炎症がその病態と言われています。病態の一つとして、獲得免疫応答である 2 型ヘルパーT 細胞(Th2)、自然免疫応答である 2 型自然リンパ球 (innate lymphoid cells type 2; ILC2) による IL-4、 IL-5、IL-13 の好酸球誘導が気道炎症を引き起こすと考えられています。また近年ではTh17、ILC3による好中球性炎症が重症度に関与していることが報告されています4)。しかしながら、病態の全貌は未だ不明な点が多く、より一層の解明が望まれています。
上述の通り、好酸球性副鼻腔炎は比較的新しい疾患概念であるため、全体的な免疫抑制を行う副腎皮質ステロイド以外に、治療薬や検査、重症度分類やバイオマーカー等が確立されていません。この好酸球性副鼻腔炎の病態解明が、当研究グループの大きな研究目標です。
臨床鼻科学の分野では、抗IL-5抗体(mepolizumab)、抗IL-5受容体抗体(benralizumab)、抗IL-4/13抗体(dupilumab)による好酸球性副鼻腔炎への効果がすでに報告されていますが5)、残念ながらその効果は一定しているとは言えません。このため、病態に応じ分子標的薬の選択をするための、フェノタイプ、エンドタイプによる疾患分類が課題となっています。現在我々は、この疾患分類を目標として解析に取り組んでいます。具体的には、倫理審査委員会の承認のもと、好酸球性副鼻腔炎の患者さんからご提供頂いた血液、鼻ポリープ組織検体等を用い、DNA・RNA・蛋白発現等を網羅的に解析することで、局所から全身まで、そして治療前から治療後まで、空間・時間軸を含めた動的な免疫応答の解析を目指しています。
当教室の気道アレルギー研究チームは、好酸球性副鼻腔炎を臨床鼻科学的な観点のみならず、基礎免疫学的な観点、そしてトランスレーショナルな観点から捉え、その病態解明に挑んでいます。10年前までは、様々な病態の患者さんが、副鼻腔炎という広い括りの中で同じように治療されていました。それがここ10年で、鼻科学の概念は大きく様変わりしています。そして次の10年には、また違った鼻科学の概念が確立されてゆくことでしょう。当教室も、その変革の一旦を担うため、臨床・研究に取り組んでゆく所存です。
医療の進歩は、患者さんのご協力と研究者の努力、その両者によって成り立っています。皆様のより一層のご理解・ご協力を、今後とも何卒よろしくお願いいたします。