「人工内耳」は、補聴器を装着しても会話聴取が不十分で生活に大きな支障を生じている高度・重度聴覚障害の方に対する聴覚活用法のひとつです。内耳(蝸牛)内に「聴こえ」の神経を刺激する電極を入れ、音を電気信号に変えて直接「聴こえ」の神経を刺激してことばを聞き取る装置です。人工内耳は、手術で耳の奥に埋め込む体内部と、音をマイクで拾って体内部へ信号を送る体外部から成ります。
人工内耳が適応になる方は、補聴器の装用効果が非常に乏しい方です。成人・小児ともに聴力検査で平均90デシベル以上の重度難聴があり、補聴器装用を行っても効果が乏しく、手術後の(リ)ハビリテーションを含めた支援療育体制が整っていることが重要になります。当科では、聴力の詳細な評価や補聴効果の有無の検討や医学的な判断に加え、言語聴覚士による言語・認知機能含めた詳細な評価、ご本人ご家族の意思を総合的に勘案して慎重に適応を決定しています。
人工内耳は、手術後に装用すればすぐにことばが聞きとれるようなるわけではありません。専門外来担当スタッフが、人工内耳の調整(マッピング)を行い、患者さんがことばを聞き取れるようにトレーニングを積んで、次第に言葉がわかるようになります。小児の場合、多くは生まれた時からの難聴であるため、聴覚だけでなく言語の成長発達に対する根気強い療育・トレーニングが必要になります。これら(リ)ハビリテーションを長期的・持続的に行うことが大切です。
当科では過去10年間で約100名の方が人工内耳手術を受けられています(成人:小児≒1:1)。成人で人工内耳手術を受けられた方の会話の聞き取り能力は、平均で術前が10%以下であったのに対し術後は平均70%の改善が認められております。
人工内耳を含め様々な方法をご提供することで、人と人とのコミュニケーションにとって最も重要な「きく」「はなす」機能がより良くなり、その方にとってより望ましい社会生活が可能になるよう支援できればと考えております。
(日本耳鼻咽喉科学会homepageより一部引用)