San Diegoよりこんにちは、管理人の秀です。
San Diegoは最低気温19℃、最高気温25℃程度で過ごしやすい日が続いています。
今日は、渡米してからの1年強を振り返って、留学して良かった点、悪かった点を考えてゆきたいと思います。
あくまで個人的&カルフォルニア州サンディエゴという恵まれた環境における感想ですが、これから研究留学を考えてらっしゃる先生方の参考になれば幸いです。
最初に言っておきます、長いです。
Youは何しにUSへ?
「YouはなんでUSに来たの?」
「MDなんだから、日本におったほうが生活安泰なんちゃう?」
これはラボのスタッフや学生と語った時に、大抵聞かれる質問です。
医師免許があるのに、それを活かせない&ろくに言葉も通じない環境に、どうして身銭を切ってまで身を置くのか?
彼らの感覚では理解に苦しむようです。
米国では職場を移るのは日常的な事で、どんどん人が入れ替わります。
自分のラボのスタッフが今週来てないなーと思ったら辞めてた…普通にあります。
自分の能力をより活かせる環境、自分の人生がより豊かになる環境を求めて、職場や街、ひいては国を移るというのが、行動原理の根底を成しているようです。
自分の周りにもヨーロッパ各地、インド、中国、韓国、台湾・・・と世界各国から来た仲間がいますが、彼らの大半は米国でグリーンカード、最終的には市民権を得て永住することを前提に来ています。
それはもちろん、米国という環境が、より良い職を得て、より豊かな人生を送るために必要だからです。
そんな彼らからすると、日本人研究者、特に医師免許保持者が身銭を切って米国に研究しに来る姿が奇異に映るのも、当然なのかなと思います。
だいたいいつも「キャリアアップのため」とか「外国に住んでみたかったから」とか、そんな感じで答えるのですが、ますます理解に苦しむようです(笑)
では実際にどうしてそのような外国人が理解に苦しむ行動に、日本の職場の皆さんや家族に迷惑をかけてまで、及んでしまったのか?
これを一言で説明するのは難しいのですが、大学院生として4年間基礎研究に従事する中で、留学しようという考えが徐々に醸成されていった、というのが実際のところです。
もともと確固たる意思があったわけではなく、むしろ自分なんかには絶対無理・・と考えていました。
それでも留学してみようかなと思うようになったのは、国際学会に行って自分の英語能力の無さに凹んだり、基礎研究にもう少し本腰を入れて取り組んでみたい気分になったり、留学してる自分の同級生や他大学の耳鼻科の先生に刺激を受けたり、尊敬する先輩に留学の価値について語られたり、そういう小さな動機の積み重ねがあったからだと思います。
そんなこんなでいざ留学することになり、なんのツテもないカリフォルニア州サンディエゴのとある研究室に飛び込んだわけですが、来て間もなくラボメイトは自分を含めて2人という環境に。
前述の通り、こっちは人の移り変わりが激しいので、こういう事も珍しくないようですが、そこから再び人が増えて現在に至るまでの苦労は、正直思い出したくないです。
実際、1年経ってやっとラボの体制が軌道に乗って、腰を据えて自分の研究が出来るようになった感じです。
そんな1年だったので、研究留学者の平均的な感想とはちょっとズレてるかもですが、良かった点、悪かった点を考えてみたいと思います。
前置き長くなってすみません。
留学して良かった点
英語能力が多少向上した
多少、というのがポイントです。
最初に言っておきます、普通に生活しているだけでは、1年で英語がペラペラになることは無いです。
ほとんどの研究留学生が同じ感想を頂いている印象です。
まあ多少というのは、普段の仕事や生活の中で、聞き返しながらも相手の言っていることを理解したり、流暢でなくても自分の言いたいことを伝えたり、そんな感じで日常会話が成立する程度です。
最近このような実感を抱く出来事が2つありました。
一つ目は、最近ラボのみんなでランチした時のこと。
1年前は、ランチタイムなどで行われるフリートークには全くついていけませんでした。
英語でのフリートークは日本人の苦手とするところですが、これはスピードが早いことや発音の省略が頻繁に生じるだけでなく、会話の内容に対するテーマみたいなものがないからだと思います。
それが今回は、一字一句聞き取れるわけではないですが、会話の内容をフォローして自分も会話に加わることが出来たので、あー1年前よりはマシかな俺?と思いました。
2つ目は、ラボミーティングでのプレゼンの時のこと。
前述の通り、ラボの体制が軌道に乗ってきたのが最近のことなので、ラボミーティングも定期的ではなく不定期に行われています。
なので「明日のミーティングでプレゼンよろしく☆」とか前日に笑顔でサラッと言われるのが常なので、たいてい準備をする時間はありません。
昨日もミーティングでプレゼンが当たったのですが、前々日の夕方に言われたものの、既に実験の予定もミッチリで、準備時間ゼロでしたので、最近やった実験結果をまとめてあったスライドをぶっつけ本番でプレゼンする羽目になりました。
最初の頃は睡眠時間を削って作った突貫工事のショボいスライドを、シドロモドロの英語で喋る感じで、これは相当なストレスでした。
というのも、日本にいた頃は、英語のプレゼンをする時はあらかじめ原稿を考えてから臨んでいたからです。
ただ最近はもう自分の中では諦めがついて、もうどうにでもなれ、知らん、という一種悟りの境地に達しておりましたw
ところが今回は、ぶっつけ本番で喋り始めてみるとあら不思議、あれなんか今オレ、スライド見るだけでそれっぽい英語が自然に口からスラスラ出てきてる?という感じで、正直自分が一番驚きました。
多分、データに関する考察や議論を普段から英語で行っているため、そういう研究関連の言い回しが染み付いてきたからなんだと思います。
これは嬉しい誤算でした。
あとは、英語で笑いが取れるようになったこと(実際は気遣って笑ってくれてるだけでしょうw)。
でも実際、アメリカンジョークなんて言葉がありますけど、笑いのツボなんて国境関係ないと思います。笑いって大事ですね。
世界の最先端の環境を体験する
研究、少なくとも医学生物学の研究においては米国はトップを走っていると思うのですが、その環境に実際に身を置くのは、ものすごく貴重な経験になっています。
特にサンディエゴは多くの研究施設があり、バイオ系の企業も多く集まっているので、その規模たるや凄いです。
「米国留学すれば、のんびり研究しながら家族との時間を楽しめる」みたいな噂がありますが、これは完全に都市伝説だと思います。
米国で研究で食ってゆくのは、日本以上にシビアで大変な事です。
少なくとも僕の上司は24時間365日働いているような感じに見えますし、僕の同僚もそんな感じで、みな研究で一旗上げるために必死です。
高校生や大学生、大学院生の指導もしていますが、皆真面目で勉強熱心です。
また、研究室同士の垣根も低く、頻繁にコラボレーションが行われますし、名だたるバイオ系企業の人達とも触れ合う機会が多くあり、そういう中で大きなうねりが生まれてゆくのだなと感じます。
こういう事を耳で聞くのと、自分で体感するのは雲泥の差があると思います。
少なくとも、自分には基礎研究だけで食ってゆくだけの覚悟と能力がなかったのだなと痛感することが出来ました。
それと同時に、自分が研究者として何処を目指すべきかという疑問にも、一定の方向性が見えてきた感触があります。
実際のところ、1年でほとんど何も成し得てないのですが・・。
サンディエゴ最高
この一言に尽きます。
1年を通して15-20℃前後で、雨はほとんど降らずカラッとしており、地震や台風、落雷もありません。
これほど気候に恵まれた街は日本にはないと思います。
その上、すぐ近くには沢山の美しいビーチやトレイルがあり、レゴランドカリフォルニアがあり、全米最大規模の動物園があり、シーワールドがあり、9月には世界最大規模のエアショーが開催され、ちょっとロスまで足を伸ばせば見どころ満載・・・。
家族連れで住むには本当に最高の土地です。結構本気で永住したいです(アメリカの医師免許とレジデンシーからやり直す若さがあればの話)。
家族で英語圏に住むという経験
これって家族の性格とか学校の環境に左右されるので、良い経験になる方もいれば辛い経験になる方もいらっしゃるようですが、我が家の場合は良い経験になっています。
これは英語圏というか、サンディエゴという環境に拠る部分が大きいと思います。
たくさんのテーマパークがあり、グンマーにはないビーチもあり、美味しいピザやハンバーガー三昧(給食で出る)・・・子どもたちには最高のようです。
それは置いておいても、幼いうちに英語圏で生活するという経験は、おそらく子どもたちに良い経験になっているように感じます(ずいぶん苦労もありますが)。
語彙力や文法はまだまだですが、彼らのwaterの発音は真似出来ないです(尊敬する先輩が昔ブログに書いていましたが、本当にその通りでした!)。
子供の語学吸収力や環境適応能力ってすごいですね。
食べ物、酒、最高
地ビール最高。
サンディエゴはクラフトビールの聖地らしく、たくさんのブリュワリーがあります。
まあ実際お店に飲みに行くことほぼないのですが、スーパーで地ビールを物色するだけでも楽しいです。
驚いたのは、日本のビールが日本より安いこと。
24缶入りで16ドルとかで買えちゃいます。これは本当に助かる。
カリフォルニア米も安いですね、日本のお米のほうが美味しいですが。
あと、ハンバーガーとピザ、ステーキが安くて美味しい。
特にピザとステーキの安さと旨さは素晴らしいです。
日本のスーパーに置いてあるアメリカンビーフって固くて美味しくないイメージでしたけど、こっちのスーパーで買うトップサーロインはむちゃむちゃ美味しいし安いです。
留学して悪かった点
心も身体も不健康(8/26一部追記)
日本にいた頃は、研究しなくても給料を得ることが出来たので、自分の気分の乗らない時はいくらでもサボれましたが(教授、すみません)、こっちではそれで食っているのでそうはいきません。
常に新しいデータを求められ、常に次の実験系の計画書を求められ、学生の指導や他のラボとのコラボレーションもこなしながら、突然やってくる臨床検体に翻弄される毎日は、本音を言うとキツイです。
研究の修行のために沢山の人に支えられてここにいて、忙しいのは幸せな事だと頭では理解しているので、常に自分を奮い立たせて追い込み続ける毎日なのですが、心と身体が思うようについていかない時があります。
自分は睡眠時間を6時間より低く設定すると日中のパフォーマンスに影響が出るのと、毎朝1時間走らないと調子が出ないので、1日14時間程度しか働けないのも原因ですね。
また、自分は複数の事を要領よく同時に頭の中で処理してゆくことが出来ない人間で、色々なことが一度に重なるとパニックになってしまうため、上手く仕事全体のバランスを取れていないのだと思います。
あとは何もかも英語というのが地味に時間を取られる原因なのかな・・。
1年経って、それでも感覚が麻痺してきたのですが、本音を言えばもっと健康的な生活をしたいし、平日子供の顔を見る時間を少しでもいいから取れればいいな、と思うことがあります。
完全に愚痴ですみませんが、本音を書きました。
医療のハードルが高い
救急車呼んだら100万円と聞きますが、本当らしいです(実際に呼んだけど、値段を聞いて搬送されるのを断念した人の話を聞きました)。
米国は日本のような国民皆保険制度ではないので、契約する保険会社やプランによってカバーされる範囲も大きく異なり、システムも超複雑で、未だによく分かりません。
一度、子供が昼頃から腹痛を訴えだし、夜間になってかなり強くなったため、虫垂炎かイレウスかと思い小児夜間救急に連れて行った事がありました。
日本であれば子供ですので、ほとんどの自治体では無料で医療を受けられると思いますが、こっちではそうはいきません。
医師の診察、血液検査、腹部単純写真、エコー、点滴を受けて、実費負担分だけで7万円くらいかかりました(総額はもっとずっと高い)。
そして結局、ただの便秘という・・・。
医療に関しては、日本は素晴らしい国だとつくづく実感しました(逆に言えば、過剰なのかもしれません)。
総括
良かった点に対して悪かった点少なくね?と思った方もおられるかもしれません。
僕も頭をひねって考えたのですが、実際あまり思い浮かびませんでした。
僕の超個人的な視点から見たUnited Statesって、
・移民の国なので、やっぱり根底にはフロンテイア精神があって、新しい事にどんどんチャレンジする精神が根付いてて、フットワーク超軽いけど有言実行しないことも多い
・移民の国なのでいろんな人がいて、どんな人が身の回りにいるか分からないので、基本個人主義もしくは家族主義、表面上はHow are you?でフレンドリーだが、最後は個人の利益を優先する
・当たり前だけど英語社会、母国語が英語じゃない人ばっかりだけど、みな英語を話す
それに比べると日本は
・単一民族国家で日本列島を外国の脅威から守って来た歴史があり、新しい事へのチャレンジには常に全体の意見を聞き、良くも悪くも慎重で、有限実行することが多い
・単一民族国家で全体主義、調和を重んじ、常に互いを慮り、最後は全体の利益を優先する
・当たり前だけど日本語が母国語の人がほとんどで、英語があまり喋れない
これが1年経った今感じる、超個人的な感想です。
それぞれの国に良いところ、悪いところがあって、こういうことを日本の外に出て初めて、感じることが出来た(聞いた、のではなく感じたというのが重要)のが、結局は留学の一番大きな収穫なのかもしれません。
個人的な性格に照らし合わせると、僕には米国のほうが合っていると思いますが、皆さんはどうでしょうか?
結論、留学して本当に良かった。
留学を後押ししてくださった近松教授、坂倉先生、群馬大学耳鼻咽喉科医局・同門会の皆様、その他留学を支援してくださった全ての方々に、この場を借りて心より御礼申し上げます。
さて、明日も日曜日ですが朝から働きますよー!くじけるな俺、頑張れ俺、負けるな俺!!!