HOME > お知らせ > 新着情報 > 学会報告 > 『Combined Otolaryngology Spring Meeting (COSM)2024 ―シカゴからー

お知らせ

『Combined Otolaryngology Spring Meeting (COSM)2024 ―シカゴからー

こんにちは。茂木です。

今回、シカゴで開催されたCombined Otolaryngology Spring Meeting (COSM)2024に参加してきました。

 

シカゴの魅力

アメリカの中西部、約270万人の人口を要するアメリカ第三の都市、シカゴ。ミシガン湖のほとりにあるこの都市は、1885年に世界初の高層ビルが建てられたことでも知られています。高層ビルが立ち並ぶスカイラインは圧巻で、まるで空を突き刺すガラスの塔。

学会前、シカゴ美術館に足を運びました。異国の地で見る芸術作品には、なんとも言えない特別な魅力があります。私は、アートには全くもって縁もゆかりも、もちろん鑑賞眼も持ち合わせていません。それでも、モネやルノワールなどの印象派の作品を自分のペースでゆっくりと眺めることができ、心身ともにリラックスできました。一転、摩天楼が立ち並ぶ街中を歩けば、アメリカならではのエネルギッシュな雰囲気を肌で感じることができます。

 

COSM

アメリカも日本と同じく、当科ではいくつもに専門領域に分かれて学会が存在しますが、いくつか違いもあります。その一つは、学会の集中開催です。複数の学会の年次総会が、一つの会場で同時に開催されます。それがCOSMで、今年も鼻科学会、顔面神経学会、小児耳鼻咽喉科学会、気管食道学会など9つの年次総会が1週間の間に合同で開催されました。一度にいくつもの学会に参加できるとは、いい仕組みです。

私は5年ぶりの参加です。実は2020年の本学会にも演題がアクセプトされていたのですが、新型コロナパンデミックにより現地開催が中止となってしまいました。今回はTriological Society、American Otological Society(アメリカ耳科学会)、American Neurotology Society(アメリカ神経耳科学会)に参加してきました。

さらに違うところは演題の構成です。Oral presenterは1つの学会あたり30から40演題程度と、狭き門です。よって、比較的ポスター演題が多くなるのですが、こちらもセレクションがなされます。アメリカ以外の国の先生からの発表も少なくありませんが、症例報告はほぼ見られません。

ポスター発表

私はTriological Societyにて「乳突腔障害に対する骨パテ板を使った新規手術法」というテーマでポスター発表を行いました。ポスターセッションも活発で、ディスカッションの時間帯には至る所で意見交換がなされていました。私もポスターを色々見て回り、多少も質問をしたりしましたが、ネイティブの発表者の多くは「何か質問してくれよ」と目がギラつきすぎていて、こちらが焦るばかりでした。

現地で、大阪の北野病院から参加されていた金丸先生や山口先生、富山大学の森田先生、慶應義塾大学の甲能先生にお会いしました。金丸先生と甲能先生はOral Presenterとして選ばれ、大変輝いておられました。

 

学会でのトピック

耳科領域に限らず、AIに関する演題が多く見られました。特に、ChatGPTを取り上げた演題が目立ちます。AI技術が医療に与える影響は年々大きくなっており、診断補助から治療計画の立案、患者教育まで、様々な応用が考えられています。例を挙げると、患者さんへの教育資料の作成をChatGPTに指示した場合、どの程度の表現レベルにしたら理解してもらいやすいのかという視点。Flesch-Kincaid Grade Levelという文章がどの学年レベル相当なのかの指標で見ると、8th Grade(日本での中学2年生)くらいに合わせた表現が理解してもらいやすいようでした。複雑な医療用語を理解しやすい形で説明できるということもChatGPTの大きな強みでしょう。あと1、2年はこのテーマが注目を浴び続けることは間違いなさそうです。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、片側聾への人工内耳装用についての議論がなされていました。日本では、片側聾に関しては人工内耳手術がまだ保険でカバーされていないこともあり、大規模な臨床データは報告されていません。雑音下の聴取能やQOLが改善されるといったメリットは確実に大きいものの、方向感に関しては効果が限定的であり、また長期的に見て使わなくなってしまうケースも少なくないといった課題もあるようです。

他には、聴神経腫瘍手術と同時に行う人工内耳植込や局所麻酔下での人工内耳植込、サイトメガロウイルス関連難聴への人工内耳装用の効果などの話題もありました。一方で、今回はTEESに関する話題は全くというほど見られなくなっており、本分野のトレンドの移り変わりの早さを実感しました。

日本ではあまり取り上げられないテーマ

OTC(Over-the-Counter)補聴器というカテゴリーがあります。2022年8月にアメリカFDAが新しい規制を発表しました。軽度から中等度の難聴を持つ成人が医師の処方なしで購入できる補聴器を「OTC補聴器」と言います。これは自分で設定や調整を行えるように設計されていたり、コストが安かったりとした特徴があります。日本にはまだこのカテゴリーの補聴器期や法規制はありませんが、いずれ日本でも整備されていくと個人的には考えています。OTCとはいえ、General Practitioner、いわゆる家庭医がこの補聴器の調整や管理に関与してもらう方がいいのではないかということで、彼らの意識調査などが行われていました。今後の動向が注目されます。

 

印象に残ったこと

今回、特に印象に残ったのは、システィマティックレビューや医療データベースを活用した演題が多かったことです。米国では、Bioinformaticianといったような専門家とコラボしやすかったり、クラウドベースの医療ビッグデータへのアクセスが容易だったりするのでしょうか。こうした臨床データを用いて、健康アウトカムや社会経済的格差の関連を検証し、治療予後を評価する取り組みなどが見られました。本邦の当科領域においてはまだまだ普及している研究手法とはいえず、非常に日米の違いが明確になるトピックでした。

例えば、突発性難聴の診断基準を満たした例ではMRIが推奨されているが、実際全米でどれだけの例がそのプロトコールに基づいてMRIが行われ、結果としてどんな割合で聴神経腫瘍が見つかったのかなど、具体的なデータも発表されていました。こうした大規模データに基づくスタディは、今後の医療施作や診療ガイドラインの策定にも大きく寄与するのでしょう。

とにかく様々な切り口からデータを解析していました。いかに時流を捉え、かつ臨床的意義の大きい研究テーマであるか、そして我々現場の診断・治療選択にどれだけ大きく寄与するかという観点で研究計画を練ることの重要性を改めて認識する良い機会となりました。

シカゴの食事

シカゴでは美味しい食事も堪能できます。学会終了後は、獨協医大の栃木先生とステーキ(近松先生に教えていただいたMichael Jordan’s Steak House!ありがとうございました。)。栃木先生は来年からアメリカに留学されるそうです。ぜひ頑張っていただきたいですね。

まるで本のように分厚いシカゴピザが有名ですが(私は断然、薄焼き派です)、ホットドッグにもシカゴスタイルというのがあるそうで。パンにポピーシードバンズを使い、ケチャップはかけないんだそうです。また、ミレニアム・パークでの散策(有名なcloud gateは工事中で近くには寄れず… 泣)や地元のカフェでのんびり過ごす時間も格別でした。

 

おわりに

COSM2024への参加は、とても充実した時間となりました。日本ではあまり取り上げられないトピックや自分の知識が希薄なフィールドに触れることができること。これが国際学会の一番の魅力だと改めて感じました。ちなみに来年のCOSMは、ジャズなどの音楽を含め多様な文化が融合する都市、ニューオーリンズで開催されるとのことです。

最後に、快く学会に送り出してくださった医局の先生方、そして日頃からご支援頂いている同門会の先生方に心より感謝申し上げます。学んだことを、精一杯日頃の臨床・研究・教育に還元していく所存です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

トップへ戻る