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World Congress of Audiology(WCA) 報告記

 

こんにちは、茂木です。

今回、パリで開催されたWorld Congress of Audiology(WCA)に参加してきました。これは、世界中のAudiologistや耳鼻咽喉科医、聴覚デバイスの研究者などが集まり、聴覚の基礎研究から臨床応用、さらには最新の補聴器や人工聴覚器に関する発表が行われる学会です。2〜4年に一度のペースで開催されています。

 

なぜAudiologyの学会に?

正直に言うと、日本ではこの分野の研究がまだあまり盛んとは言えず、特に臨床研究に関しては視点が単調で、深みが足りないと感じていました。日本では、補聴器が普及しづらい環境にあることも遠因になっているのかもしれません。補聴器購入の際の公的補助は徐々に拡充されつつありますが、まだ十分とは言えません。そんな中、Audiologyに特化したこの学会で、今後の臨床研究や社会課題の解決に役立つ知見を得られることを期待して、意気込んでパリに向かいました。

 

芸術の都パリ…だけど?

今回の会場はラ・デファンスという場所。ここはヨーロッパ最大級のビジネス地区で、超高層ビルが立ち並ぶ近代的なエリアです。「パリってエッフェル塔やセーヌ川があるロマンチックな街じゃないの?」と思ったあなた、その通り。でもパリには、そんな一面だけじゃありません。ラ・デファンスはまるで新宿の西口高層ビル群をめっちゃオシャレにした感じで、伝統的なパリとは違う、都会的な雰囲気が楽しめます。

 

 

 

実は、この芸術の都には少し苦い思い出があります… 7年前の国際学会で訪れたとき、地下鉄でiPhoneを掏られました。しかも、地下鉄を降りるまで盗まれたことに気づかず。その技術も芸術的かよ…(泣) 今回もパリに着いてからソワソワが止まらず、地下鉄を見れば動悸が。指が食い込むほどバックパックをがっしり胸に抱き抱え、射るような目で周りを睨んでいるアジア人。それが私です …完全にトラウマです。

 

忌まわしきパリのメトロ(なんと自動運転!)

 

最高の朝食

そんなトラウマも一瞬で吹き飛ばしてくれるのが、パリの食事!朝食にクロワッサン、チーズ、生ハム、エスプレッソ…これだけで「ヨーロッパに来た甲斐があった!」と心から感じます。クロワッサンは外がサクサク、中はしっとり、そして芳しいバターの香りがたまりません。チーズと生ハムも種類が豊富で、どれも新鮮で美味。どうしてこんなに日本のものと違うんでしょうか。朝食を楽しんでいるうちに、「ああ、自分は今パリにいるんだな」とようやく実感しました。

 

パリの観光

パリは、オリンピックの片付けの真っ最中といったところでしょうか。あのブレイキンが行われたParc Urbainがあったコンコルド広場には、まだ仮設会場のセットが残っています。パリの9月はまだサマータイム。夜7時半でも明るく、パリジャンやパリジェンヌは日の出ている時間を思う存分楽しんでいます。

 

 

オルセー美術館ではChatGPTが大活躍

よく絵画の横に小さな解説プレートが並べてありますよね。茂木はあれを読んでも、正直全く理解できません。美術関連の用語って、医学英語とは全然違うんですよね。そこで、ChatGPTに聞いてみよう! 写真をアップロードして、「この絵の解説をして」と頼んだら、すぐに詳細な説明と関連知識が出てきました。もうオーディオガイド、いらないかもですねぇ。

ChatGPT:ゴッホの「アルルの女(ラ・アルルジェンヌ)」は、彼が1888年に南フランスのアルルで描いた一連の肖像画の中の1つです。この作品のモデルは、カフェ・ド・ラ・ガールを経営していたマダム・ジヌー(Madame Ginoux)という女性で…」

 

WCA 2024では

そろそろ学会の話を。今回の学会では、遺伝子治療、ロボットを使った人工内耳手術、人工前庭、さらには聴覚皮質インプラントなど、まさに未来を感じさせる話題が盛りだくさんでした。もちろん、補聴器と認知機能の関係やリスニングエフォート、そしてAIの応用といった最新トレンドも取り上げられていました。

遺伝子治療なんて、ほんの5年前ではまだ夢の話と思っていたのに、海外ではもう臨床試験へと進んでいます。難聴遺伝子(Otoferlin)の完全長コピーを蝸牛内に1回投与するだけで、全ての周波数ではないものの聴力が正常レベルまで回復した例もあるんだとか。正直、そこまで効果が高いのかと驚かされました。

個人的に感心したのは、Teleaudiologyの進展です。患者さんが病院に行かず、自宅で補聴器や人工内耳のフィッティングができるシステムが整ってきています。あるセッションでは、実際に補聴器を使っている高齢の難聴者さんが登壇し、パリとニューヨーク間で行った遠隔フィッティングの経験を語っていました。Audiologistなどの聴覚専門家はどの国でも人材不足だそうですが、この技術を使って補聴器を導入した場合でも、患者さんの満足度は概ね高いとのことです。

海外では、専門家のいる施設にアクセスするだけで2時間以上かかることも珍しくありません。私が外勤で働く埼玉県利根地区には、人工内耳によってQOLの改善が期待できる重度の難聴を抱えた高齢者がたくさんいます。ところが、2時間もかけて前橋まで来られないという社会的理由で、多くの方はその恩恵を受けられません。遠隔会議システムのセットアップがうまくできるか、スタッフをどう確保はするか、課題はまだまだあります。ですが、この遠隔聴覚リハのパッケージが普及すれば、より多くの人が適切な聴覚ケアを受けられるようになるのでは、と大いに期待しています。

 

国際学会ならではの話題

2021年3月3日、WHOが聴覚スクリーニングに関する勧告を「World Report on Hearing」として発表しました(実は、3月3日は世界的にも”耳の日=World Hearing Day”です)。恥ずかしながら、茂木は今学会で初めて知ったのですが、このReportでは、新生児だけでなく学童や高齢者を対象とした聴覚スクリーニングと早期介入の重要性も強調されています。成人のスクリーニングに関しては、「50歳以上が対象となり、64歳までは5年ごと、65歳以降は頻度を1~3年ごとに増やすべき。聴力検査のスケジュールは他の健康診断と一致させるべきだ。」とも述べられています。

特に途上国などでの具体的なアクションや、自覚症状のない難聴者への介入方法などについても議論が活発に行われていました。こういった公衆衛生の話題は、国際学会でないとなかなかキャッチアップできないものですね。

 

自分の口演

さて、茂木の発表はいかに。テーマは「社会的フレイルと補聴器の装用効果」。なんと、今回の会場には強力な味方が横に。それはAI音声翻訳。自分の拙い発音で海外の聞き手に伝わるのか、非常に不安もありましたが、これがあれば安心。だってあのめちゃくちゃ早くて訛りの強いインド人の英語も、ばっちりテキスト化できているんだもん(自分のことは棚に上げて… 失礼!)。本当にいい時代になったものです。ただ、質疑応答の時間が少し寂しく、1つも質問が来なかったのが残念。次回はもっとみんなの興味を引く演題を考えようと心に誓いました。

 

学会後の楽しみ

国際学会の別の醍醐味は、他大学の先生とゆっくりお話しできることです。今回は、大阪公立大の阪本先生、加藤先生、名古屋市立大学の高橋先生、東海大学の和佐野先生と食事をご一緒に。なんとパリの美食の象徴ミシュラン1つ星を予約してくださっていました。洗練された美食とはこのことかと存分に堪能させていただきました。本場の美味しいワインにも感動。先輩方、楽しく、そして勉強になるお話を、本当にありがとうございました。

 

 

今回の学会参加を通じて感じたこと

補聴器や人工聴覚器に対する日本の認識や研究は、他国と比べるとまだまだ遅れている部分が多いと改めて実感しました。でも、こうして世界の最新技術やトレンドを肌で感じることで、群馬にいる私たちができること、やるべきことがより明確になったと思います。

ええ、もちろん無事に地下鉄を攻略できましたよ。iPhoneを無事に持って帰れたことが何よりの成果!(笑)

次回の学会は2026年5月、ソウルで開催されるそうです。皆さんもぜひ、参加してみてはいかがでしょうか。

最後に、快く学会に送り出してくださった医局の先生方、そして日頃からご支援頂いている同門会の先生方に心より感謝申し上げます。学んだことを、精一杯日頃の臨床・研究・教育に還元していく所存です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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