HOME > お知らせ > 新着情報 > 学会報告 > 第34回 日本耳科学会総会・学術講演会 報告記

お知らせ

第34回 日本耳科学会総会・学術講演会 報告記

こんにちは、茂木です。

10月だというのに、秋の足音が聞こえぬまま、蒸し暑い風が漂う名古屋で耳科学会に参加してきました。

お馴染みの顔ぶれ

私の口演はなんと初日、朝一番のセッション。朝が苦手な自分にとって、この時間帯の発表は少々しんどいものがあります。テーマは、真珠腫の硬化性病変について。真珠腫の手術の際にしばしば硬化性病変を認めますが、結構これが操作の邪魔になります。この病変がどう術後成績に影響するかという話をしました。今回も会場にはお馴染みの顔ぶれ。最近はそのお馴染み感で安心?!するようになってきました。温かい質問も3つほどいただけました。やっぱり自分の話に興味を持っていただけるのは嬉しいですね。質問してくださった先生方、ありがとうございました。

人工聴覚器デモンストレーション

口演が無事に終わり、ほっと一息つきたいところですが、ここで気を抜くわけにはいきません。今回のメインイベントはれではありません。

一番の大仕事。それは「人工聴覚器デモンストレーション」を担当することです。3Dプリンターで作成した模擬骨を使って人工内耳埋め込み術のデモンストレーションを行うことになっています。解剖や手技のTipsを解説しながら、ダイセクションをしていきます。聴衆は若手の先生ですと聞いていましたが、なかなかベテランの先生方もいるではないか。。。緊張感が一気に高まります。

MastoidectomyからPosterior tympanotomyまではまずまず順調。ところが、正円窓窩の庇を削る時になって問題が。なんとどれだけ庇を削っても、正円窓、また鼓室階の空間が見えてこない!「えっ、まさかの正円窓骨化モデル?」と焦りが込み上げ、背中には冷や汗が。同じ型番の製品でも、蝸牛内腔の状態に個体差があると聞いてはいました。しかし、実際に正円窓膜すら開かないとなると慌ててしまいます。

で、どうしたか。協賛医療機器メーカーさんのサポートにより、3分クッキングよろしく、すでに正円窓膜が開放されているモデルとサッと取り掛かえます。しかし、ここで新たな問題が。実際の患者さんの鼓室とは違い、粘膜や粘液がない。なので、電極の滑りがめちゃくちゃ悪いのです。ここで、あらかじめ仕込んでおいた石鹸水。これが効きました。電極を滑らせ、なんとか無事に!?電極を完全挿入できました。これで、デモは終了。実際のオペ以上にハラハラドキドキしましたが、まあこれも良い経験です。司会を担当いただいた北野病院の金井先生、改めてお礼を申し上げます。先生のサポート、本当に助かりました。

本学会のトピックス

今年の学会では、どんなテーマが注目されたのでしょうか。

ここ数年注目されているのが「一側性難聴」です。一側性難聴に対する補聴器の効果や、その客観的な評価方法が議論されています。通常の気導補聴器が使えないような一側性難聴の方も、人工聴覚器や軟骨伝導補聴器などを着けることで両耳の内耳へ音を伝えることができるようになってきました。これにより、雑音下の聴取能と音の方向の判別が改善することが期待できます(両耳聴効果)。両耳で音を感じるというのは、まさに「世界が変わる瞬間」だとおっしゃる難聴患者さんもいます。単に聞こえを良くするだけでなく、トータルとして聞こえのQOLを上げていこうという方向に向かっています。

雑音下での聴取能を測るために、海外ではOLSA (Oldenburg Sentence Test) と HINT (Hearing in Noise Test) といったスタンダードな検査法が使われていますが、日本ではまだ確立された方法がありません。ですので、検査法を統一しようという流れがあります。ただ、これらの検査は専用のソフトウェアが必要だったり、方向感検査には9個のスピーカーとそれを配置できる広い防音室を準備したりしないといけず、実施には一定のハードルがあります。当院でも導入を検討したいところです。ちなみに、バージョンアップした聴力検査機器がリオン社から近々発売されるそうです。

また、切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌外耳癌に対してホウ素中性子捕捉療法(BNCT)もオプションとなりえるとの発表もありました。脳壊死や側頭骨骨髄炎などの晩期有害事象が懸念されますが、初期治療効果は高いとのこと。もちろん当院では重粒子線治療を行なっていますから、BNCTとの長期的な比較データが気になります。

鼓室内ステロイド投与についても学会からまとまった報告がありました。突発性難聴のステロイド全身投与で効果が乏しい場合のサルベージ治療として、また顔面神経麻痺に対する初回治療として、鼓室内ステロイド投与は標準治療になりつつあります。

トランスレーショナルリサーチ関連のセッションが多くなったことも、以前と変わってきたところでしょうか。医師による医療機器開発を学会としてもアシストしていく、といった姿勢が顕著になってきたと感じます。国の施策としても「医療版下町ロケット」が期待されているようです。

ポスターセッション

ポスターセッションにも座長として参加しました。

私の担当する群に、前職時代に一緒に働いていた平林先生が登場。シュミレーションを用いた中耳の音響伝達機構の研究について発表していました。メインテーマとなる内耳再生分野で素晴らしい研究をしつつも、中耳の研究でも英文誌へ投稿するなど素晴らしい業績を残している後輩です。いわば「二刀流」の研究者で、いずれは「三刀流」も可能かもしれません。もちろん、彼の発表は多くの質問が飛び交い、一番盛り上がった発表となりました。

異空間での学会懇親会

座長の任務を無事に終えた後、待っていたのは学会主催の懇親会。個人的には、最も楽しみにしていた時間です。場所はなんと、リニア鉄道館。鉄道版「ナイトミュージアム」とも言える空間で、歴史的な車両がずらりと並ぶ圧巻の展示です。わたしは「鉄」ではないので、陳列されている車両がどれほど貴重なものなのかは、正直よくわかりません。けれど、歴史的な車両たちがずらっと並ぶ迫力たるや。マニアでなくとも、十分楽しめる光景でした。

リアル「電車でGO!」も待ち時間なしのVIP待遇。しかも、たまたまご挨拶したところ、学会大会長の名古屋大学曾根教授、自らがアテンドしてくださり、一つ一つの車両について説明していただくという贅沢な時間にも恵まれました。思わぬ体験ができるのも「学会の醍醐味」かもしれませんね。曾根教授、本当にありがとうございました。

最後に

来年の本学会は福岡で開催されます。

最後に、快く学会に送り出してくださった医局の先生方、そして日頃からご支援頂いている同門会の先生方に心より感謝申し上げます。学んだことを、精一杯日頃の臨床・研究・教育に還元していく所存です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

トップへ戻る